長崎大学歯学部同窓会創立15周年記念学術講演会

 シンポジウム
「日本におけるフッ素利用の現状と水道水フッ素化の動き」

香川県フッ素利用を推進する会
浪越 建男 先生

 [略歴]  
昭和 62年 長崎大学歯学部卒
平成 3年 長崎大学大学院歯学研究科卒(咬合運動学特論専攻)
 歯学博士(学位論文 いわゆる歯科用金属アレルギーに関する研究)
長崎大学歯学部助手(歯科補綴第二講座)
平成 6年 香川県三豊郡仁尾町にて浪越歯科医院開設
  現在に至る

 [学会・社会活動]
・長崎大学歯学部臨床助教授
・日本むし歯予防フッ素推進会議理事
・香川県フッ素利用を推進する会理事
・日本ヘルスケア歯科研究会評議員

 [抄録]
 生涯にわたり口腔の健康を保持増進することは国民すべての願いである。先進諸国における齲蝕予防の成果 を鑑みれば、EBM(Evidence-based Medicine)の考えに基づいた フッ化物応用は、21世紀のわが国の地域口腔保健向上のために極めて大きな課題であり、フッ化物応用において積極的にイニシアチブをとることは、口腔保健医療専門職の責務である。
 今日に至るまで、先進諸国におけるフッ化物応用では全身的応用と局所的応用が複合的に利用されてきた。これらの応用法、成果 を見る限り、今後日本においても診療室内、個々人の局所応用のみで、地域住民全体の口腔の健康向上が効果 的に得られるとは考え難い。したがって、身体的、社会経済的条件などにかかわることなく、水道を利用する人々に公平に齲蝕予防の恩恵をもたらす水道水フッ素化(水道水フッ素濃度の調整)を現実的な地域歯科保健施策として位 置付ける必要がある。
 人類がかつて経験した最も大規模かつ優れた公衆衛生手段の一つである水道水フッ素化は、WHOなど世界の150以上の医学・保健専門機関がその安全性、有用性を認め、繰り返し実施を推奨している。現在世界の56か国で実施されており、この中には天然の適正フッ素濃度水道水を利用している国も含まれる。日本国内でも、適正フッ素濃度の原水、浄水の存在が確認されているが、齲蝕予防のために有効利用できていないのが現状である(水道水質データベース http://www.jwwa.or.jp/mizu/)。その一方で、日本の米軍基地内では水道水フッ素化開始からすでに40年以上が経過していることは、意外と知られていない事実である。
 1999年日本歯科医学会により「フッ化物応用についての総合的見解」が出され、翌2000年には厚生省、日本歯科医師会が、地域住民の合意を前提に水道水フッ素化を容認、支持する見解を表明した。水道水フッ素化の実施が先送りにされてきたわが国においても、ようやく水道水フッ素化実施に向け動き出した自治体があらわれている。このような先進自治体(沖縄県具志川村、宮崎県都城市、群馬県甘楽町、富山県利賀村、栃木県西方町、東京都町田市など)には、水道水フッ素化に関して根拠ある適切な情報を提供し、一般 住民の理解を得るために努力している専門家、団体の活動がある。今回はそれらの活動状況を通 して、日本における水道水フッ素化への動きを紹介する。