平成14年度冬季学術講演会
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 平成15年1月19日(日)に平成14年度冬季学術講演会を長崎大学歯学部5階第一講義室において開催いたしました。受講者は108名(同窓生61名、学生31名、その他16名)でした。
 講師は名古屋大学大学院医学研究科 頭頚部・感覚器外科学講座の上田実教授で、「広がる再生医療の世界−歯科領域への展開」という演題で午後1時より約2時間にわたって御講演いただきました。上田先生は京都大学工学部卒業後、東京医科歯科大学へ再入学され、卒業後名古屋大学医学部歯科口腔外科へ勤務されました。その後、 同大学で数多くの研究成果をあげられ、その研究結果を臨床応用すべく企業との連携によりベンチャ−企業を立ち上げられました。最先端の再生医療をめざされるお忙しいなか、日程を調節していただき開催にいたりました。
 講演では、最近のトピックスである再生医療について、ご自身のこれまでの動物実験から臨床応用、さらにはバイオ産業の世界における事業化についての話が展開されました。1990年代初頭よりはじまったティッシュエンジニアリング (Tissue Engineering:組織工学)は、例えば、骨でいうと骨形成能を持つ幹細胞と骨基質となるマトリックス、および成長因子を組み合わせ、生体組織を再生させる技術です。この方法は近年、急速な発展を遂げており、現在では、皮膚、軟骨につづき骨の再生が可能になってきました。上田教授の教室では、いち早く、それらの研究に取り組まれました。最近では、骨髄由来間葉系幹細胞と生体吸収性セラミックス材料によって骨再生が可能であることを明らかにし、臨床応用として同大学附属病院の再生外来で、1週間に1回、歯周病患者に対しての治療がはじめられています。また、本年4月から、兵庫県神戸市の先端医療センタ−で流動骨の注射による再生治療がはじまる予定です。 まさに、最先端の医療である再生医療の歯科への応用です。また、下顎8番相当部の下顎骨骨髄を採取してきて動物の腹腔内で歯の再生が成功したところをビデオで示されたときは鳥肌が立つ思いがしました。歯の再生医療に関しては、まだまだ時間がかかると思われますが、歯科医療従事者として夢みたいなことを理論に基づいて実現されていかれている先生の話を聞いていて受講者の方々も深い感銘を受けられたことと思います。

 最後に、わが国で新産業の一翼を担う再生医療産業を発展させていくには、大学、公的研究機関などにおける基礎研究の充実と産業界のニ−ズを踏まえた産学共同研究の推進、基礎研究から生まれる発明が特許として権利保護・移転される体制の整備、バイオ産業化を担う人材の教育・育成が必要であると今回の講演を聴いてつくづく思いました。

副会長 伊藤道一郎